リリーのすべて VD-30

作品紹介

公開年月  2015/11/27
ジャンル  ドラマ/伝記
原作  デヴィッド・エバーショフ 『世界で初めて女性に変身した男、その妻の愛の物語』
監督  トム・フーパー
脚本  ルシンダ・コクソン
製作  ゲイル・マトラックス、アン・ハリソン、ほか
製作国  イギリス、アメリカ、ドイツ
鑑賞方法  動画配信サービス

あらすじ

1926年、デンマークのコペンハーゲンでは風景画家のアイナー・ヴェイナーは結婚して6年目になる肖像画家の妻ゲルダと仲睦まじい日々を送っていた。
ある日、ゲルダに頼まれて女性モデルの代役を引き受けたのがきっかけとなり、自分の中に潜んでいた女性の存在を自覚するようになる。
最初は遊びのつもりでアイナーを女装させ、“リリー”として外に連れ出し楽しんでいたゲルダも、次第に彼が本気だと気づき激しく動揺するのだった。

登場人物&出演者

アイナー・ヴェイナー/リリー・エルベ(演:エディ・レッドメイン)
主人公。風景画家。幼少から他の人とは違うと自覚する。リリーの誕生で変わっていく。
エディ・レッドメインは2004年公開の『博士と彼女のセオリー』にてアカデミー主演男優賞を受賞しています。
登場した時から中性的な顔立ちで、下手をすれば、ゲルダよりも美しい時がある。
肖像画のモデルがきっかけで抑圧されていた本当の自分に目覚めて迷いが消えていく。
まさにトランスジェンダーが抱える悩みを体現していて、男の部分を特に毛嫌いする描写はどこか生々しい。
命と引き換えに女性となるけど、本人にとってそれがこそが本当の自分だと確信。
弱々しいながらも見せた笑顔こそが、長年の苦しみから解放された瞬間だと言える。
やはり、エディ・レッドメインの女性らしい演技はハマっているとしか思えない。

ゲルダ・ウェルナー(演:アリシア・ヴィキャンデル)
ヒロイン。肖像画家。それまで抑圧されていたリリーを解放した主因である。
アリシア・ヴィキャンデルは代表作に『エクス・マキナ』、『コードネーム/U.N.C.L.E』などがあります。
ある意味、本作の主人公とも言える人物であり、変わっていく夫をずっと見ている。
応援している部分があるけど、心の中ではどこか認めたくないという気持ちが伝わる。
それが最後まで引っ張っていくので、本当に応援しているのか疑わしくなるほど。
しかし、これはクライマックスの為に用意された長い伏線で、演じたアリシア・ヴィキャンデルは見事にこなしています。

ハンス・アクスギル(演:マティアス・スーナールツ)
アイナーの幼馴染みの画商。田舎では変わり者同士のアイナーと気が合う仲だった。
マティアス・スーナールツはドイツ出身で代表作に『ブラックブック』、『闇を生きる男』、『君と歩く世界』などがあります。
どうやらゲルダに対して片想いをしていて、すぐにアイナーの異変に気づいていた。
本作では描写が少なすぎるので、アイナーそっちのけで下心満載の男にしか見えなかった。

ヘンリク・サンダール(演:ベン・ウィショー)
リリーが初めてパーティーに出た時に出会った同性愛者。リリーを強く求める。
ベン・ウィショーは代表作に『パフューム/ある人殺しの物語』、『007/スカイフォール』などがあります。
最初からリリーが男だと分かっていた上で迫っていき、彼女を最も理解する人物。
リリーが完全に女性へと変わる主因の一つとも言えるほどの大きな存在だった。

感想

個人的な評価

デヴィッド・エバーショフの小説『世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語』が原作となっています。
実際に存在した風景画家のリリー・エルベがモデルとなっている作品です。
監督が『英国王のスピーチ』で知られるトム・フーパーが務めている。
本作はトランスジェンダーの苦悩について描かれていて、現代でも地域によって大きな問題になっている事を描いています。
実在したアイナー・ヴェイナーは小さい頃から何か違和感を持っていた。
それが妻で同じ画家であるゲルダによって開花し、その勢いは止まらないところまでいく。
ずっと抑圧されていたリリーという人物こそ、アイナーが求めていた真実だと分かる。
これは普通の人には分からない感覚であり、自分も残念ながら共感できるところはない。
しかし、本作から伝わる本当の自分を見出す事は、性別の話しを別にしても共感できるところであろう。
普通の人にとって当たり前の事でも、アイナーのような人たちにとって毛嫌いする。
アイナーとリリーを演じたエディ・レッドメインはその気持ちを上手く表現していました。
それまで抑制されていた女性としての心が目覚めていく瞬間の表情が上手い。
更にそこから段々と勢いが止まらなくなっていき、行くところまで行く己の欲求もよく伝わってきます。
その一方で女性としてではなく、人間として愛するようになるゲルダとの葛藤も分かる。
自分の中にある凄まじい違和感と、愛する人の事を思って流した涙は痛いほどに分かります。
ゲルダも当初は応援していたが、気持ちのどこかにアイナーの帰りを待っている状態がずっと続いています。
顔は笑っているけど、その笑顔はどこかぎこちなく、心の底から笑っていないと分かる。
この微妙な気持ちをクライマックスまで持っていくバランス感覚が素晴らしい。
普通なら途中で諦めてしまう気持ちを紙一重のところで堪えているのが上手いと思う。
だからこそ、クライマックスのシーンでみせるゲルダの笑顔が活きてくるのです。
やはり、アカデミー助演女優賞を受賞するだけの深みがあって、愛すると同時に喪失していくゲルダをアリシア・ヴィキャンデルは演じきっています。
ただ、個人的に煮えきれないところがあって、途中で少し長いような印象を受けた。
リリーが主人公のはずだが、ゲルダに重点を置いている部分が多いので、そこら辺のバランスが少し悪いと感じた。
主人公のアイナーとリリーの心理描写がほぼ皆無だから、今一つ共感するという部分が弱いように思えた。