作品紹介
公開年月 | 2007/05/19 |
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ジャンル | ドキュメンタリー |
原作 | なし |
監督 | マイケル・ムーア |
脚本 | マイケル・ムーア |
製作 | メーガン・オハラ、マイケル・ムーア |
製作国 | アメリカ |
鑑賞方法 | レンタルDVD |
概要
先進国で唯一、公的な国民皆保険制度を持たないアメリカ合衆国。
民間の保険にも加入できず、悲惨な生活を送る人々の実状を突撃取材で迫る。
出演者
・マイケル・ムーア
・リチャード・ニクソン
・ビル・クリントン
・ヒラリー・クリントン
・ビリー・トーザン
・ジョージ・W・ブッシュ
感想
個人的な評価
まず、本作のタイトルである『シッコ(sicko)』とは狂人や変人を意味するスラングです。
これはこの作品におけるアメリカの医療制度や民間の医療保険に対する皮肉をこめています。
アメリカには日本のように国民健康保険制度がなく、全ては民間の医療保険に加入しないと病院の治療費が払えない状況です。
経済大国で先進国であるアメリカだが、健康保険充実度が全世界でも37位というモノです。
とにかく、本作はアメリカの崩壊寸前である医療業界のやり方に対して批判をする内容である。
冒頭では民間の医療保険に加入できない人々の惨状を描写しており、呆れてしまっている様子を見せている。
事故っても病院で治療が受けられず、自分の足を自分で縫うような描写なんかも酷い有様です。
アメリカの人口はおよそ3億人いますが、そのうち医療保険に加入しているのは2億5千万人で、未加入者は5千万人。
未加入者の状況は酷いですが、例え医療保険会社に加入しても簡単には保険金が下りないようです。
病院からは治療や手術の必要性があると診断されても、医療保険会社はそれを認めず、結局は保険金を払わない。
却下される保険金だが、本作の監督であるマイケル・ムーアが医療保険会社についての情報を求めていると知ると、掌を返したような変貌ぶりも驚きです。
だからと言って誰もが保険に加入したいと思うので、契約しようとするが、病歴や持病の者は当然のように審査ではねられてしまう。
営業を担当していた女性が登場しますが、老夫婦が申請の段階で審査に通らない事を知りながらも何もできずに罪悪感で涙を流していました。
これは健康な人間じゃないと儲からないというシステムの上に成り立っているモノで、病人はお断りの意味をします。
それでも医療保険会社は契約を拒めなかった時、医師の治療を否認ができず費用を払う羽目になった時、どんな事をしても金を取り戻す役目を持つ男が登場するようです。
今ではその業界から足を洗っていますが、彼は申請書の小さなミスを見つけたり、加入者すら知らない既往症を掘り出す。まさに殺人事件の捜査並みに。
まさにそれは失った金をどんな手段でも取り戻すという医療保険会社の恐ろしいシステムです。
アメリカの医療制度を崩壊へと導いたのは、新しく提案した当時の米国大統領リチャード・ニクソンによって始まったようです。
その制度とは儲けを第一にするモノであって、決して国民全体の為ではないと事を翌年から分かるのです。
そこで立ち上がったのは当時米国大統領だったビル・クリントンの妻、ヒラリー・クリントンを委員長に任命する。
これは民間から医療保険を政府へと移行する国民皆保険を進めようとしました。
しかし、それはアメリカを混乱に導き、何より立ちはだかるのは多くの議員やアメリカ医師会でした。
皆保険がやがて社会主義国家へと変貌させるという飛躍した反撃はさすがに呆れてしまいました。
一番アメリカが恐れているのは社会主義国家なので、反撃には打って付けのモノで、結果として皆保険は封印される。
完全に沈黙してしまったヒラリー・クリントンに対し、褒美として医療業界から上院議員で二番目に多い献金額を受け取っているようですし。
更に民間の医療保険に限らず、アメリカでは製薬会社に買収されている多くの議員も存在する。
もちろん、その中で最高額をはじき出しているのは当時米国大統領でマイケル・ムーアの宿敵であるジョージ・W・ブッシュですね。
これは高齢者の処方箋薬に政府が補助金を出す為の法案を可決させようとバラ撒いた金だという。、
その大事な法案の推進役にはビリー・トーザン下院議員を指名。彼は熱烈なまでのマザコンで、高齢者の味方となって国民の支持を得る。
こうしてアメリカの税金8000億ドルを製薬会社に補助金と称して渡し、医療保険会社は中間業者になって一緒に甘い蜜を吸う。
アメリカの医療制度を叩いたところで、今度は他国の医療制度と比べ、どれだけアメリカの医療制度が問題か分かりやすく説明していきます。
最初に比較対象となったのはすぐ上のカナダですが、ここでは保険に加入している者ならば、治療費はタダという。
日本の健康保険制度に近いが、アメリカでは社会主義医療としてあり得ないぐらいに叩いているのです。
次にはイギリスですが、この国では『NHS(National Health Service)』があり、基本的に全ての医療は無料という。
アメリカが国民に植えつける社会主義医療の概念を打ち破るモノとして、監督のマイケル・ムーアの驚く顔が実に面白い。
彼の質問が飛ぶと、それを聞いて嘲笑するイギリス人たちの表情もまた良かったですね。
フランスも医療制度は素晴らしく、有給休暇を三ヶ月もとってもちゃんと100%支払われるようです。
それにフランスの国民性も個人的には気に入りまして、政府が国民を恐れているのは正しい姿だと感じました。
キューバもアメリカ国民にとって恐ろしい国だが、実際はのんびりとしており、皆保険も採用していて医療も優れている。
先進国ではないのに、そのショックを受けたアメリカ国民の様子も実に生々しかったです。
これらの国々では共通して儲ける事よりも、治療を必要とする人を助ける意識の方が高い。
このような素晴らしい医療制度を見てしまうと、アメリカの医療制度がアホ臭く見えてしまいますね。
何より入院費を払えない患者をホームレス支援センター前にゴミ同然のような感じで捨てるのも驚きでした。
いくら個人主義の国だからって、医療制度を崩壊させるまで腐敗させるのは残念で仕方ありません。
できれば、日本もアメリカの医療制度と対比した国々のように素晴らしい医療制度にすればいいなと思ってしまう。
まあ、アメリカの医療制度に比べれば、断然に素晴らしいのは言うまでもありませんが。
この映画はあくまでドキュメンタリーなので、作品としての評価よりも純粋に知識の一つとして楽しめる。
オイラはあまり期待していなかったが、予想以上に面白く鑑賞ができ、何よりイギリスやフランスに住みたくなりました。
是非とも本作の方はオススメしたいと思います。特にアメリカの医療制度が崩壊している状況なんかもスゴイですよ。